盲目の天使
リリティスの慌てた様子がおかしくて、
くすくすと笑いながら、もう一度きつく抱きしめた。
・・こんなにも近くにいるのに、どうしてこんなに不安なのか。
なぜか、カルレインは、リリティスが消えてしまいそうな気がして、
わけもなく不安がこみ上げた。
不幸な間は、落ちる事を、考えずにすんだ。
そこが、底辺だと思っているから、ひたすら上を目指せばいい。
深い穴倉の中からわずかに覗く、広い空にあこがれて。
いや、ひょっとしたら、穴倉にいることすら気づかずに、もがくことも忘れていたのかもしれない。
だが、自分は、空の広さを知ってしまった。
青く澄んで、自由な風の吹き渡る、大空を。
だが、そこは、あまりに広く自由で・・・自由すぎて。
かえって恐ろしくなってしまう。
この華奢な手を離してしまったら、もっと恐ろしい穴倉に、落ちてしまうかもしれない。
・・幸せすぎると、どうも不安になるらしい。
リリティスは、カルレインの様子が、いつもと少し違う気がして気になったが、
仕事で疲れているのだろうと、気に留めなかった。
そんな二人の様子を、遠くから、じっと眺める黒い影があった。
あれが、カルレイン王子とリリティス王女か・・・。
その影は、鋭い目つきで二人を観察すると、
誰にも気づかれないまま、そっと、その場を離れた。