盲目の天使
「希望通り、カナンの王女をカルレインへ褒美として与える!」
威厳のある、プロンの声が、宴の席中に、ずしんと響く。
これで、カルレインも、少しは、自分に敬意をはらうだろう。
うまくすれば、女に溺れて、しばらくは、おとなしくなるかもしれない。
プロンにしてみれば、カルレインに弱みができるのは、
それはそれで、都合の良いことだった。
いざとなれば、何かにつかえるというものだ。
皆が、拍手で迎えようとしたとき、
お待ちください!という、カルレインの静かな声が響いた。
「王のお気持ちは、ありがたく頂戴いたします。
ですが、私は、リリティスを、褒美としては受け取れません」
カルレインの意外な言葉に、周囲はざわめいた。
リリティスは驚き、
マーズレンは、一体彼が何を言い出すのかと、そわそわした。
まったくもって、この主ときたら、誰にも相談することなく、
次々と、突飛な事を言って、周りを騒然とさせるのだ。
その後始末に、誰が奔走しているかなど、知りもせず。
マーズレンは、痛む胃に、自然と手をやった。
「それはどういうことか。褒美にと望んだのは、おまえ自身だぞ」
プロンは、せっかく自分が、カルレインの望みに沿ったのに、
素直に礼を言わないことに、憤った。