盲目の天使

「アルシオン。その顔はどうした?」


部屋へ帰る途中、アルシオンは、カルレインに偶然、出会い、

今しがた、杯が当たって赤くなっている頬を、見られた。


「衣まで、濡れているじゃないか」


アルシオンの衣からは、酒のにおいがしたが、飲んでいたようには見えない。

まるで、人が違ったような暗い眼をしている。

それは、酔った人間の瞳ではなく、堕ちていく人間のそれ。


すさんでいた自分と違い、まっすぐで優しい弟が、

こんな瞳をしたことなど、一度もなかったはずだ。


「兄上・・。

リリティスの無実を証明できるような、証拠はありましたか?」



そうか。

リリティスのことが気になって・・・。



カルレインは、アルシオンが、自分と同じ気持ちで、眠れぬ夜を過ごしているのかと思うと、

ずっと、心にひっかかっていた敵対心が、嘘のように薄れた。


「心配するな。必ず助け出す」


カルレインは、精一杯の笑顔を作って、アルシオンの肩を叩いた。







< 303 / 486 >

この作品をシェア

pagetop