盲目の天使
「アルシオン。その顔はどうした?」
部屋へ帰る途中、アルシオンは、カルレインに偶然、出会い、
今しがた、杯が当たって赤くなっている頬を、見られた。
「衣まで、濡れているじゃないか」
アルシオンの衣からは、酒のにおいがしたが、飲んでいたようには見えない。
まるで、人が違ったような暗い眼をしている。
それは、酔った人間の瞳ではなく、堕ちていく人間のそれ。
すさんでいた自分と違い、まっすぐで優しい弟が、
こんな瞳をしたことなど、一度もなかったはずだ。
「兄上・・。
リリティスの無実を証明できるような、証拠はありましたか?」
そうか。
リリティスのことが気になって・・・。
カルレインは、アルシオンが、自分と同じ気持ちで、眠れぬ夜を過ごしているのかと思うと、
ずっと、心にひっかかっていた敵対心が、嘘のように薄れた。
「心配するな。必ず助け出す」
カルレインは、精一杯の笑顔を作って、アルシオンの肩を叩いた。