盲目の天使

「これを使え」


カルレインは、アルシオンに布を差し出して、濡れた衣を拭くよう促した。


手渡された布を、じっと眺める。



・・兄上に、母のことを伝えれば、リリティスは助かる。



「兄上・・・」


「なんだ」



だめだ、やはり言えない。

母のことを伝えれば、この兄は、烈火のごとく怒って母を追い落とすだろう。



王の地位などどうでも良かったが、

自分を産んでくれた母を、自らの手で不幸にすることなど、

アルシオンには、とてもできなかった。


「・・・私にも、リリティスを助け出す手伝いを、させてください」


母のことを言わなくても、リリティスの無実は、証明できるはずだ。

そもそも、自分が王につく気がないと、はっきりさせなかったのが悪かった。

しかし、母の前で王にならないと宣言したのだから、これ以上何もしないだろう。


アルシオンが、自分の考えを後悔するのは、それから少し後のことだった。



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