盲目の天使
王妃ソレイユは、頭から、すっぽり布をかぶり、
罪人の待つ牢への階段を、一歩一歩上っていた。
まったく、この私が、こんなところを、上らなければならないなんて!
王妃は、自分以外の人間を、信用していなかった。
リリティスを殺すのも、他人任せにするのは嫌というより、不安だった。
リリティスの食べ物に、毒をたらせばすむことなのに、
ソレイユは、自分の息子を、たぶらかしたリリティスを、
あっさりと殺しただけでは、気が晴れないと思った。
“今度こそ”、苦しませて殺さなくては。
その言葉に含まれる意味を、ソレイユ自身も、理解してはいなかった。
今度こそ。
あの女を。
あの女、すなわち、カルレインの母に対して、いまだ、劣等感を抱いているということを、
ソレイユ自身が素直に認め、真正面から向き合っていれば、
彼女の人生は、もう少し豊かになったのかもしれない。
しかし、いまや、それを振り返ったところで、彼女の心に降り積もった積年の恨みは、
ちょとやそっとで、砕けるほど、小さいものでも、柔らかいものでもなかった。
牢の見張りには、王命で、リリティスの様子を見にきたといって、通った。
王がこっそりリリティスに会いに来たのは、一度ではなかったので、
見張りはソレイユの言葉を、あっさりと信用した。