盲目の天使
その夜、リリティスは、眠れなくて星空を眺めていた。
・・明日は、カナンへ向かうのね。
しっかり眠るように言われていたが、気持ちが高ぶって眠れない。
故郷へ戻るということだけが、その理由ではない気がした。
リリティスは、自分が記憶を失っている間のことを、オルメやルシルから聞いてはいた。
カナン国からカルレインに連れられ、このノルバス国へ来た事。
毒を飲んで倒れ、3日間、死線をさまよった事。
その毒のおかげで、目が見えるようになった事。
しかし、それらは、みなリリティスの実感と結びつくことはなく、
ただ、目が見えることだけが、動かぬ事実として、残されていた。
・・カルレイン様は、もう眠ってしまわれたかしら。
リリティスが、カルレインの事を考えると、胸の中が、小さく、とくんと音をたてた。
自分を見つめる、優しいまなざしが、思い浮かぶ。
カルレインが、わざわざ自分を、故郷へ連れて行ってくれるのは、どうしてだろう。
ただたんに、自分を憐れんでのことなのか。
でも、それならば、兵士に命じればすむことだ。
そう、例えば、腹心の部下であるマーズレンに。
・・少しは、希望を、抱いてもいいのかしら。
瞬く間に、流れ星が、一つ、東の空へと駆けていく。
いけないわ。もう眠らなくては・・・。
再びベッドに入ると、リリティスは、目を閉じた。