盲目の天使
なぜだか、リリティスは、悪いことをしている気分になった。
アルシオンの事を、少しも思い出せないからだろうか。
それとも、自分を庇護してもらった恩を、少しも返していないからか。
理由は、判然としない。
けれども、アルシオンの瞳は、嬉しさと、哀しさと、せつなさと・・・。
あらゆる感情が、ないまぜになったような、複雑な色をしているように見える。
「すみません。
私、思いだせなくて・・。
きっと、あなたにも、たくさんお世話になっていたのですよね?」
リリティスは、申し訳なさでいっぱいになり、足元に視線を落とした。
そう。
彼の、気持ちを乱している原因は、おそらく・・・自分だ。
・・そんな表情をさせるつもりでは、なかったんだが。
アルシオンは、自分の感情をうまく隠せない自分に、ため息をつく。
記憶のないリリティスに、取り入れば、カルレインを出し抜くことが出来る。
そんな事を、考えたことが、ないわけでは、なかった。
自分は、カルレインよりも、後に出会ってしまったから、
だから、この恋は、うまくいかないのだ。
記憶を失ったことは、ひょっとして、自分にとっては、好機なのではないか。
だが・・・。
アルシオンは、リリティスの体を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめると、
自分の気持ちを、振り切るように大声を出した。
「では、姉上!
お気をつけて!」
“姉上”
その言葉に、自分の全ての気持ちを込めると、
リリティスの体を、カルレインの腕に預けて、アルシオンは、そっと微笑んだ。