盲目の天使

なぜだか、リリティスは、悪いことをしている気分になった。


アルシオンの事を、少しも思い出せないからだろうか。

それとも、自分を庇護してもらった恩を、少しも返していないからか。


理由は、判然としない。

けれども、アルシオンの瞳は、嬉しさと、哀しさと、せつなさと・・・。

あらゆる感情が、ないまぜになったような、複雑な色をしているように見える。


「すみません。

私、思いだせなくて・・。

きっと、あなたにも、たくさんお世話になっていたのですよね?」


リリティスは、申し訳なさでいっぱいになり、足元に視線を落とした。

そう。

彼の、気持ちを乱している原因は、おそらく・・・自分だ。






・・そんな表情をさせるつもりでは、なかったんだが。



アルシオンは、自分の感情をうまく隠せない自分に、ため息をつく。


記憶のないリリティスに、取り入れば、カルレインを出し抜くことが出来る。

そんな事を、考えたことが、ないわけでは、なかった。


自分は、カルレインよりも、後に出会ってしまったから、

だから、この恋は、うまくいかないのだ。

記憶を失ったことは、ひょっとして、自分にとっては、好機なのではないか。


だが・・・。


アルシオンは、リリティスの体を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめると、

自分の気持ちを、振り切るように大声を出した。


「では、姉上!

お気をつけて!」


“姉上”

その言葉に、自分の全ての気持ちを込めると、

リリティスの体を、カルレインの腕に預けて、アルシオンは、そっと微笑んだ。







< 419 / 486 >

この作品をシェア

pagetop