盲目の天使

「私、何も思い出せないのです」


リリティスは、カルレインの温かさに誘われるように、言葉をつむいだ。


「私、カナン国にいた頃のことは、鮮明に覚えています。

父や母のこと。

目が見えなくなったときのこと。

叔父様が、王になってからのこと・・。

でも。」


リリティスは、そこで言葉を区切り、うつむいた。


「カルレイン様と出会ってからのことを・・・何も思い出せません」


やっとの思いで、そこまで口にすると、リリティスの美しい瞳が、涙であふれた。


カルレインは驚いて、リリティスを抱きかかえると、自分の膝に据わらせる。


正直、カルレインは、自分のこと以外、--正確には、ノルバスへ来るあたりのことからだが--、

何も、分からなくなったわけではない、リリティスが、

記憶を取り戻せないことに、そんなにも動揺するとは、思っていなかった。







< 424 / 486 >

この作品をシェア

pagetop