盲目の天使
「私、何も思い出せないのです」
リリティスは、カルレインの温かさに誘われるように、言葉をつむいだ。
「私、カナン国にいた頃のことは、鮮明に覚えています。
父や母のこと。
目が見えなくなったときのこと。
叔父様が、王になってからのこと・・。
でも。」
リリティスは、そこで言葉を区切り、うつむいた。
「カルレイン様と出会ってからのことを・・・何も思い出せません」
やっとの思いで、そこまで口にすると、リリティスの美しい瞳が、涙であふれた。
カルレインは驚いて、リリティスを抱きかかえると、自分の膝に据わらせる。
正直、カルレインは、自分のこと以外、--正確には、ノルバスへ来るあたりのことからだが--、
何も、分からなくなったわけではない、リリティスが、
記憶を取り戻せないことに、そんなにも動揺するとは、思っていなかった。