盲目の天使
「泣かなくても良いだろう。
カナンにいた頃のことは覚えているのだから」
カルレインは、慰めたつもりだったが、リリティスは、ますます激しく泣き始めた。
「いいえ、ちっともよくありません!
わ、わたしっ!
カルレイン様のことを、思い出したいのです!」
リリティスは、しゃくりあげながら、手の甲で涙を拭う。
言ってしまってから、そうなのだ、と気づいた。
自分は、カルレインの事を忘れたことが、辛いのだ。
だからこんなにも、胸が苦しくて、仕方ない。
「リリティス。すまない。
お前がそんなに思いつめているのは、俺のせいだ」
カルレインの言葉に、今度はリリティスが驚いて顔を上げた。
「俺は本当に欲張りだな。
お前が死にかけたときは、命さえ助かってくれれば、とそう思った。
なのに、命が助かったら、今度は俺のことを思い出してほしいと願ってしまう。
お前はやさしいから、俺がそんな風に思っているのを察して、
思い出さなくてはいけないと、義務感に駆られているのだろう。
気にするな」