盲目の天使

以前、水浴びをして、カルレインに裸を見られたことのある湖だが、

リリティスは水面を見ても、そのことを思い出しはしなかった。


湖の水は、上流にあるノルバス国の方から流れ込み、下流の川へと流れて行く。

雨の勢いは、それほどではなかったが、長時間に渡って水が集められたために、

ケータ川は、徐々に水かさを増して、流れが速くなっていた。



・・・だいぶ、濁ってしまっているわ。



リリティスは、いったんは水を汲んだものの、

瓶の中の水が濁っているのを見て、眉をひそめた。



もう少し深いところまで行けば・・・。



リリティスは、衣の裾を左右から絞って捲り上げると、

そっと湖の中へ足を踏み入れる。


流れの速い水の上澄みを、ごみをよけながら掬い上げてみた。



・・・だめね。こんなに濁っていたのでは、飲めないわ。

木屑や葉っぱも沢山入ってしまうし。



ため息をついて、空を見上げる。


灰色に覆われた空から、すっと落ちてくる雨は、まるで絵筆のようだ。

湖という画布に落ちて、いくつもの円が芸術的に描かれていく。



< 443 / 486 >

この作品をシェア

pagetop