盲目の天使
以前、水浴びをして、カルレインに裸を見られたことのある湖だが、
リリティスは水面を見ても、そのことを思い出しはしなかった。
湖の水は、上流にあるノルバス国の方から流れ込み、下流の川へと流れて行く。
雨の勢いは、それほどではなかったが、長時間に渡って水が集められたために、
ケータ川は、徐々に水かさを増して、流れが速くなっていた。
・・・だいぶ、濁ってしまっているわ。
リリティスは、いったんは水を汲んだものの、
瓶の中の水が濁っているのを見て、眉をひそめた。
もう少し深いところまで行けば・・・。
リリティスは、衣の裾を左右から絞って捲り上げると、
そっと湖の中へ足を踏み入れる。
流れの速い水の上澄みを、ごみをよけながら掬い上げてみた。
・・・だめね。こんなに濁っていたのでは、飲めないわ。
木屑や葉っぱも沢山入ってしまうし。
ため息をついて、空を見上げる。
灰色に覆われた空から、すっと落ちてくる雨は、まるで絵筆のようだ。
湖という画布に落ちて、いくつもの円が芸術的に描かれていく。