盲目の天使
「城にいるときは、礼儀作法と、ほんの少し、政治についても学びました」
「女であるお前が、政治を?」
「はい。カナン国は、多くの国々に囲まれた、小さな国です。
それを守るためには、国境を接している他の国のことも、知らなければならないからと」
それは、リリティスの父である、ユリウスの持論であった。
武力に頼らず、他国との相互理解によって、国を支える。
そのためには、相手の考えを知り、柔軟に対応する術を身につけなくてはならない。
一見、流されているだけのようにも思える、リリティスの素直な性格は、
そういった、彼女の父の考え方に、多大な影響を受けているのかもしれなかった。
「すばらしいお父上だったのだな。
俺も、お会いしたかった」
リリティスは、父のことを思い出して、切なそうに笑ったが、
向かい合っていないカルレインから、その顔は見えない。
「農作業が忙しい次期は別ですが、それ以外は、毎日のようにこの森で遊びました。
木登りや、木の実集めや、魚釣りや」
「本当か?お前にそんなことができるのか?」
そこまでお転婆だなどと思ってもみなかったカルレインは、
思わず、リリティスの顔を肩越しに覗きこんだ。