サラリーマン讃歌

~邂逅~

俺は流れ出る涙と、体を激しく打付けてくる雨を一切気にせず、マンションを飛び出すとひたすら空見子の家を目指した。

すれ違う人々が、雨が降りしきる中で傘もささずに走っている男を、奇異の目で見ているのは解ってはいたが、少しでも早く空見子に逢いたかった俺はひたすら走り続けた。

駅に着き、全身ずぶ濡れの俺を駅員が訝しげに見てきたが、止められる事はなく、なんとか電車に乗り込めた。

電車内の人間からも当然注目を浴びていたが、電車に揺られながら佇んでいると、今までの空見子との思い出が走馬燈のように頭の中を駆け巡っていた。

数少ない思い出でではあるが、俺にとってはひとつひとつが掛け替えのない宝物だった。

空見子との出会い

空見子との再会

初めて遊びに行った遊園地

空見子の拗ねた顔

空見子の俺の名を呼ぶ声

そして、空見子のあのとびっきりの笑顔

正しく空のような美しく、澄んだ笑顔だった。

彼女を形造る、全ての物が愛しかった。

今の俺の頭の中には空見子しかいなかった。

電車が駅に着くとバスを待つ時間を勿体なく感じ、俺は空見子の家に向かってまた駆け出し始めた。

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