僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ



――イテェな……。クソ親父。


「日向の名に泥を塗る気か!?」


殴られたまま背けていた顔を、ゆらりと上げる。


目の前で顔を真っ赤にさせて怒る親父が、バカらしくて苦笑いすら出なかった。


「はっ……くだんね。大した家柄じゃねぇだろーが。自意識過剰過ぎんだよ」


たかが名門校の教頭やってる位で『日向の名』とか……図に乗り過ぎなんだっつうの。


「このクズが……っ! 出て行け! 二度と帰ってくるなっ!」


そう怒鳴り散らして床に叩きつけたのは、大したことない札束だった。


そんなに出世が大事か。まあ、万年教頭止まりで嫁の方がいいとこのお嬢さんなら、色々人のせいにもしたくなるよな。


どーでもいいけど。


「じゃあ、お言葉に甘えて。毎月の生活費は払ってもらうから。10万」

「貴様が出て行くなら安いものだ」


……20万にしときゃよかった。


床に落ちた札束を拾うと、頭上から「忌々しい」と憎悪の声。


ゆっくり見上げると、これでもかとばかりに嫌悪の視線を向けられる。


その瞳に映ってるのは“息子”ではなく“ゴミ”だろうなと思ったら笑えた。


自分の保身のために、俺を邪魔扱いする欲望にまみれた大人。こんな奴と血が繋がってるなんて気色悪いったらねえ。


もう怒りに満ちた親父を見ることはなく、横を通り過ぎ部屋に向かった。


親父の後ろに立っていた兄貴と、リビングの隅で怯える母親の視線を、背中に感じながら。

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