僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ


――自傷行為。



眠れぬ夜は決まって、カッターの刃を手首にあてた。


簡単に切れる皮膚。軽く手前に引けば赤くなり、数秒で傷の上だけに血が滲む。


力を込めると少しギザギザの直線になって、滲んだ血は傷の外へ垂れる。


いつから、こんなことをするようになったのか。記憶が朧気だけど、多分、中1の夏頃だ。


何でリストカットだったのかは分からない。


ただ、生きるために、自分を傷つけてきた。流れる血を見れば生きていると、実感できるから。痛みを伴えば感覚があると、安心できるから……。


そうだよ、おじさん。俺は、まだそんなことをしてる。醜いんだ……本当に。


――這い上がれない。絶望から、孤独から。抜け出せない。


確かな救いが、見つからないんだ。


どれだけ一瞬でも、どれだけバカで惨めでも。


俺はカッターに、救われる。


細く鋭い刃物に傷つけられた左手首。無数に広がる細長い傷が、朝を迎える勇気になるんだ。
< 189 / 641 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop