僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ
「行くか……」
時刻が夜9時を回ったのを確認してから携帯を閉じ、デニムのポケットに突っ込む。
同居を申し込んだマンションがある場所は、ここからタクシーで30分程度。だけど、さすがに今から押し掛けるのは無理だろうと思う。
先に自分の用事を済まさなければならないし、募集人の凪という女にも予定はあるだろうし。
――凪、ねぇ……。
【眠れない夜は
朝まで宴をしよう】
募集要項の下に添えられていた、奇妙な文章。
変なやつなのかと思ってたのに、返信内容は至って普通だった。
……つまんねぇな、どいつもコイツも。
まぁ同居とか面白そうだし、住めりゃなんだっていいけど。
手に握っていた札束を財布に押し込み、とうの昔にまとめていた荷物を持った。
無駄に煌びやかな装飾が施された廊下を歩き、吐き気を我慢しながら階段を下りる。
相変わらずリビングから響く怒鳴り声に振り返ることなく、二度と帰ることはない我が家を出て行った。
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