僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ


「……嬉しい」

「……グシャグシャになっちゃうよ」


聞こえないふりをして手櫛で髪を整えると、彗が突然腰を曲げてあたしの顔を覗き込んだ。


「!?」

「ありがとう、有須」


ふわりと笑う彗に、ボッと顔が真っ赤になったのが自分でも分かる。


知ってか知らずか、彗はポンとあたしの頭を叩き「おやすみ」と言って洗面所を後にした。


彗に撫でられた箇所が、熱い。なんだか胸が、くすぐったい。


……温かい人だね、彗は。


あんな環境で育っても、優しい人になるものなのかな……。


ううん、きっと彗は心の底から温かい人なんだ。温かくて、弱い。優しいがゆえに、弱い部分もあるのかな。


あたしにも、弱い部分はあるけど……。あたしも、彗も、これから続く長い人生の中で、強さを見つけられたらいい。


守りたいものがあれば、人は強くなれると思うの。


この、家とか。大切な人がいる、幸せな場所を……。守りたい気持ちがあれば、きっとどんなつらいことも乗り越えて行けるよ。



あたしはそう、信じてる。



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