僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ
「そっか」
歯ブラシを置き、彗と向き合う。あたしはにこりと笑ってから彗の左手を握った。
彗は僅かに目を見張り、不思議そうな表情であたしを見下ろす。
「闘うんだね? 彗」
「……」
「過去を受け入れて、今を、明日のために生きてくんでしょう? ……この家でまた、笑ってくれる?」
どうしてこんな言葉が口を出るのか。それは多分、彗に勇気をもらったから。
あたしは彗と少し似てる部分があるなって……勝手だけどそう思ってて。だけど彗は前に進んで行く気がして、あたしも頑張ろうって思ったの。
「……彗、いっぱい頑張ったと思うから、もう幸せになっていいんだよ。この傷は、生きたいっていう叫びだもん。……生きようね、一緒に」
彗に伝える言葉は、自分へのメッセージのようにも思えた。
両手で彗の左手を握ると、大きな右手が頭を撫でてくる。
「……あ、あの……彗?」
一瞬だけかと思ったのに、ずっと撫で続けてる彗にまた顔が赤くなってきた。
急いで彗の左手を離し、「もうっ」と言いながらあたしを撫でる右手を退かす。