コピー
「時間稼ぎに君は近藤拓郎のふりをして過ごすといい。
私としても近藤拓郎の失踪が表沙汰にはあまりなって欲しくないからな。
その件はまだ私しか知らない。
君がコピーであるということはくれぐれも悟られないようにしろよ。
バレたら最悪死だ。」
いきなり他人になれといわれても…
いや、僕はそいつのコピー(ミス)なのだから、案外簡単なのか?
「君はこの世界に元々いなかった存在だ。
だが君は『近藤拓郎』に誤まりだとはいえ情報をインプットされたため、幻の『過去の記憶』を持っている。
しかし、その記憶は誤りだから、君の記憶と実際のこの世界のあり方はかなり違っているかもしれない。
だから、近藤拓郎になりきる前に、正しいこの世界の姿や近藤拓郎の性格などを知っておかねばならない。
そこでだ、まず君に質問をして、君の記憶と実際の状態がどこまで一致しているか調べなければならないんだが…」
女は腕時計を見た。
「近藤拓郎は私の教え子だ。
つまり、私は教師であるということだ。
教師は授業をしなければならない。
でないと怪しまれる。
休むことくらいは出来るだろうが、下手に嘘をついて休みを取るのも危険だ。
私は講義に出て来る。
君はここで大人しくしていろよ。
くれぐれもこの研究室から出るな。」
女は重厚な扉へ駆け寄り、
「私の名前は山口貴子。
山口先生と呼んでくれ。
近藤拓郎はそう呼んでいた。」
では。
そう言って山口先生は出て行った。
とんでもない話だった。
とりあえず、誘拐されることよりも、もっととんでもないことが起きたようだ。
いや、待て、よく考えろ。
本当に僕はコピーなのか?
この時点では騙されているとも考えられる。
ただ大量に訳の分からない話を聞かされただけで、まだはっきりとした証拠を見せてもらっていないではないか。
もしかしたら、僕は本当は誘拐されたのかもしれない。
山口と名乗った女はやはり悪の組織の一員で、彼らは僕を使って危ない研究をしようとしているのではないか?
だとしたら、早く脱出しないと。
『バレたら最悪死だ』
山口先生のその言葉が頭によぎり、やっぱり脱出はやめることにした。