レインブルー
「篠田。ちょっといいか」
廊下に出たとたんに海の香りが漂った。
振り向くと藤木先生が気まずそうにして眉を寄せ上げている。
あたしは隣にいたクロにそっと目配せをすると、クロは黙って頷いてあたしのそばを離れた。
「何ですか、先生」
すると突然、藤木先生は頭を下げた。
「昨日はごめん」
あたしは昨日の出来事を思い出して、首を横に振った。
「やだな、先生が謝ることじゃないですよ」
「でも結局終電逃して朝まで帰れなかったろ。親に怒られなかったか?」
「うちは放任主義だから。大丈夫です。それに――」
「それに?」
「先生と朝まで一緒にいられてすごく幸せだったから」
藤木先生が顔を真っ赤にして、慌てて辺りをきょろきょろと見渡した。
「篠田。そういうことは」
「分かってますってー。こう見えてもあたし口堅いんですよ。絶対内緒にしますから」
「…本当だな?」
「もう信じてくださいよ、先生」
府に落ちない様子ながらも少し困ったように笑う藤木先生に、あたしは微笑みかけた。
「昨日のことは藤木先生とあたしだけの秘密ですからね」