吸血鬼の花嫁
また、景色が変わる。
一気に時を飛び越えていった。
何十年、もしかしたら何百年かもしれない。
ユーゼロードが立っているのは、灰色の空と一面の白が広がる、雪に閉ざされた大地だった。
人々は古き魔に怯えながら暮らしている。
古き魔と呼ばれるそれは、昼間にも夜の闇を持ち、気まぐれに人々を飲み込んだ。
この世の恐怖の具現とも言うべきか。
ユーゼロードが古き魔に近寄ると、闇は怯んだようにその勢力を弱めた。
この頃にはもう、自分にどの程度のことが出来るかを知っていた。
この魔を封じ込めることなど、造作もない。
…面倒ではあったが。
ユーゼロードと古き魔の様子を見ていた人々は、驚いたように歓声をあげる。
そして、ひざまづくと口々に、ずっとここにいて欲しいと願われた。
初めは、ただの気まぐれだったのだ。
長年放浪し、飽きていたこともある。だから、その申し出に深く考えずに頷いた。
飽きたら、また別の場所に移ればいい。
それだけのことだ。
「ありがとうっ」
幼子がユーゼロードを見上げ、たたどたどしく礼を言う。
それを聞くと、たまにはこういうことも悪くない。そんな気分にさせられた。
人々は、すぐにユーゼロードの住む館を用意してくれた。
北の果ての地はユーゼロード自身が望んだ場所である。
古き魔を封じ続けるのに、丁度良かったのだ。
館が出来ると、この地に住まう者たちは代わる代わる、ユーゼロードの元へ遊びに来た。
なかなか遠出の出来ないユーゼロードのために、手づくりの菓子、衣装、本、花、といった様々なものを持ってくる。
もっとも、菓子はユーゼロードの口へ入る前に、持って来た女子供たちが喋りながら自分たちで食べてしまうことも多かったが。
また、ユーゼロードと話に来たのか、誰かに愚痴を言いたいだけなのか、よく分からない者も数多くいた。
古き魔を封じ込めるよりも、ろくでなしの主人の根性を叩き直して欲しいと意気がる女を宥める方が大変なぐらいだった。
雪が深く積もった時を除き、館から笑い声の絶える日はなかった。
遠い昔。
幸せと、呼べる日々。