吸血鬼の花嫁
穏やかに月日が過ぎていく。
その日々に、ユゼは少しずつ慣れていった。
だが、この穏やかさを邪魔するように、ある時闇が一雫現れた。
明らかに、他の闇とは異質な黒。
その闇は排除しようとするユゼより早く黒は広がり、人の形を取った。
昔、火事の街の外で会った、名も知らぬ黒髪の青年の姿に。
「……何の用だ」
「久しぶりにあったというのに、挨拶もないとは」
「今ここでお前に会う必要性を私は感じない」
ユゼの言葉に青年は答えず含み笑う。
「聞きたいことがある」
「何を」
聞きたいというのだ。
この頃既に、この青年は南の方で確固たる地位を築いていた。
その地域から聞こえてくる噂は、けして良いものとは言えなかったが。
「人を飼って何をするつもりなのか、と」
「どういう意味だ」
「そのままの。人を古き魔から庇護し、どうしたいのか聞いている」
「…どうにも。頼まれたからそうしているだけだ」
ほうと青年は笑う。
「では見返りはない、と」
「そうだが」
ユゼの答えに青年が声高に笑った。おかしくて仕方がないという笑いだった。
「何がおかしい」
「未熟だ。あまりにも未熟なお前の考えががおかしくて笑ったのだよ」
「どういう意味だ」
「お前はまるで琥珀の中の虫だな」
琥珀は、樹液が地中で固まって出来たものだ。稀に、虫を孕んで固まることがある。
希少ゆえに、ただの琥珀よりも高額だ。
突然始まった例え話にユゼは眉をひそめる。
「無知で無学な貧しい子供が、虫入りの琥珀を偶然拾ったとしよう。
子供は、琥珀の価値が分からず、捕われた虫を哀れんだ。しかし、ある時その琥珀がとても高価なものだと知る。
子供は石の価値の前に、虫への哀れみを忘れてしまった」
「何が、言いたい」
「予言してやろう。いずれお前もそうなるのだと。
その道を自ら選んだ浅はかさを嘆くがいい」
予言というよりも、呪いのような言葉だった。
青年の言葉によって自分が黒く染まってしまうような、そんな気さえする。
ユゼは拳を握りしめた。