吸血鬼の花嫁


「大丈夫か?」


覗き込んでいる顔はルーのものだった。

私は答えようとして、口がうまく動かないことに気付く。

体が重苦しい。

なんとか起き上がろうとする私をルーが制した。


「熱が高いから、ゆっくり休んだ方がいい」


熱…。

言われてみれば、目が回り体が下へ下へと沈んでいく。

酔っているようで気持ち悪かった。

ルーが額を冷やす布をひっくり返す。ひんやりとして気持ちいい。


「水浸しで倒れていたからびっくりした。家妖精が気付いてくれたから良かったけど」

「家妖精が…」


心当たりがあるのは、意識を失う前に見た、男の子供だ。

あの子は家妖精だったのだろうか。家妖精だとしたら、何で私に見えたんだろうか。

疑問が湧いてくるが、熱で考えが上手くまとまらなかった。


「けが、は…?」


ルーが怪我をしていたことを思い出す。頬の傷は手当てされていた。

私の問いにルーが苦笑する。


「ぶっ倒れた時まで人の心配するんじゃねぇよ。後は治るだけだから平気だ」

「ごめんなさい…」


本当はルーだって大変だったのだ。

怒られたような気がして謝ると、ルーが困ったように瞬きをする。


「熱で頭が回ってねぇようだな…。とりあえず、もう少し寝てろって。何か食べたいものはあるか?」


私が首を振ると、ルーはそっか、と答えた。


「後で粥でも持ってきてやるよ」

「ありがとう……ねぇ、着替えさせたの、誰?」


ふと、気になったことを尋ねる。

汗で湿っぽくはあったが、私の服は濡れていなかった。

誰かが着替えさせたのだろう。

でも、誰が。


ルーの顔がほんの一瞬曇った。気のせいかと思うほど、短い間に、


「ん、あぁ…。家妖精の奴らだと思うけど。家妖精には女もいるらしいから、多分そいつじゃねぇの」

「そう…なんだ…」


今、誰かに体を見られるのは嫌だった。

見られて、そこにある跡に気付かれたくなかった。

家妖精だって例外ではない。

目尻に涙が浮かんでくる。


「眠ってろ」


ルーは優しい声でそう言うと、そっと私の瞼を閉じた。



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