吸血鬼の花嫁


妹のレイシャがさらわれる原因となったのか、この紫焔のところの吸血鬼だったはずだ。

随分、昔のことのような気がする。

だからと言って、悪い印象が消えたわけではなかった。

私はちらりと後ろを盗み見る。

少女というより幼女と呼ぶ方が相応しい紫焔は、意外にも大人しく私の後ろをついてきていた。


「ユゼ、お客様よ…」


書斎を覗き、本を読んでいたユゼに声を掛ける。

顔をあげたユゼは、紫焔に気付くと、怪訝そうに眉をひそめた。


「久しぶりじゃの、青いの」

「何用だ」


挨拶を抜いて、ユゼは紫焔に尋ねる。

すると、紫焔は何かを思案する顔になった。

しばらくユゼの様子を伺う。

そして、おもむろに口を開いた。


「アレはどこじゃ」

「ここにはいないが」

「呼んでくれ」

「……」


紫焔は、ユゼにも偉そうな態度を改めるつもりはないようだ。

元々こういう性格なのかもしれない。

珍しく押され気味のユゼが少しだけ面白い。

くすりと笑いをこぼすと、ユゼの視線が私へ向けられた。

その氷色の視線から逃れるように私は笑いを引っ込め目を逸らす。


「早く致せ」


紫焔に急かされたユゼは、渋々といった様子で虚空を見つめた。

ここではないどこか遠くへ意識を集中させている。


「ルー」


そして、ただ一言、ルーを呼んだ。

すると、廊下の向こうからルー本人が走ってやってくる。


「吸血鬼、呼んだか……って玄関から入って来いよ…」


ルーは書斎の入り口にいる紫焔を見つけると、疲れたようにがっくりと肩を落とした。


「どこから入ろうが、わらわの勝手じゃ。して、用は?」

「あー…長くなるから、茶を飲みながら話す…。悪いな、吸血鬼。邪魔をして」

「いや」


ルーは紫焔と私の腕を掴むと、やや強引に引っ張った。

まるで、ユゼの書斎から離そうとしているようだ。

そのまま、応接間まで引っ張って行き、私と紫焔を押し込めると、お茶を入れに走っていく。


「相変わらずのようじゃのう」


その後ろ姿を眺めながら、紫焔はどこか楽しげな含み笑いを浮かべた。



< 122 / 155 >

この作品をシェア

pagetop