吸血鬼の花嫁
思い出したように、時折ハーゼオンとミルフィリアが館に訪れた。
二人同時に訪れたこともある。
珍しいことに、驚いて私とユゼは顔を見合わせた。
向かいのルーが長椅子に座りながら、はぁーと深く息を吐く。
「新しい主人を探すべきかな」
ぼやくルーの両脇に座ったハーゼオンとミルフィリアが、同時に顔をルーへ向けた。
「うちに来ればいい」
「わらわのところはどうじゃ」
遠慮のない誘いにルーは嫌そうな顔をする。
「待遇はここが一番なんだけどな。どうも俺がお邪魔虫みたいな気がして…」
「そんなことないわ。ルーがいてくれなきゃ、困る」
本当に悩んでいるらしいルーを、私は慌てて引き止めた。
確かにユゼと私が恋人のような……花嫁なのに恋人なんて変な話だけれど。
そんな関係になってしまって、ルーに肩身の狭い思いをさせてしまっているかもしれない。
だけど、ルーも家族の一員だ。
出来たら一緒にいたい。
「ははは。でも、青珀って昔は結構遊んでいたような印象があったけど、今頃になって花嫁とこんな風に仲良くなるなんてねぇ」
しみじみとハーゼオンが言った。
私はその中の言葉の一つが引っ掛かる。
遊んで、いた…。
「そうなの?」
低い声で私が尋ねると、ユゼが無言で私から目を逸らす。
答えは、返って来ない。
この沈黙は、肯定とみていい。
私の眼差しが剣光になっていくのを見ながら、ユゼが紅茶を飲み干した。
普段は紅茶を飲まないのに。
「自業自得じゃ」
ミルフィリア自身も紅茶を啜りながら、面白そうに笑った。
「りょ、旅行に行くんじゃなかったっけ?」
見兼ねたハーゼオンが、やや強引にユゼへ助け舟を出す。
「前にそんな話をしてたよね」
「……えぇ」
行きたい、という話は随分前からしていた。
だけど、上手くタイミングが掴めず、まだ実行出来ていない。
「あぁでも、行くなら人に気をつけてね」
「どうして?」
「吸血鬼狩りが増えてるんだ。吸血鬼ならともかく、人間相手は厄介だね」
困った顔でハーゼオンは肩を竦めた。