吸血鬼の花嫁


「琥珀の中の虫、か」


ユゼは指先で琥珀を掴む。

琥珀は鈍く光り、その存在を示した。


「そんな風に思うものか、と強がっていたはずなのに、気付けばそういう風に考えている自分がいた。

虫を閉じこめた琥珀は、高価だ。その価値に重きがおかれ、誰も虫のことなど思い出しはしない。

自分も似たようなものだと思ったら、何の為にここにいるのか分からなくなっていた。

そこを、あの男に付け込まれるとは、我ながら情けない」


ユゼが守るこの地はとても平穏だ。

その平穏がいつしか当たり前になっていた。

だけど、その平穏はユゼがいて初めて成り立つものなのだ。

私たちは、忘れてしまったけれど。


「そんなことない。貴方は、凄いわ」


そして、とても優しい。

私の言葉にユゼが目を伏せた。


「……だが、虫は気付いた。自分が琥珀に閉じこもっていただけだということに」


言い終わった瞬間、ユゼの手の上で琥珀が散った。

飴色の輝きがきらきらと溢れる。

幻想的な光景だった。

私はその輝きから目が離せない。


「私はもう孤独ではない」


琥珀は、樹液が長い時を重ねるうちに出来たものだ。

中の虫も同じ時を越えてここにいる。

その虫は、ユゼの掌の上で静かに朽ちていった。


ようやく琥珀から解放され、穏やかな眠りにつくかのように。





月日が流れるように過ぎていった。

館の中の時は外よりも遅く感じる。

歳を取らない者が二人もいるからかもしれない。

巡る季節はいつだって穏やかだった。




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