吸血鬼の花嫁
「お姉ちゃん!」
悲鳴のような呼び声が、私と男たちの会話に割って入った。
同時に一人の女性が人々の前へ飛び出してくる。
女性は顔をあげて私を見た。
青い瞳と目が合う。
よく知った色合いだった。
次の瞬間、互いに凍り付く。
「……レイ、シャ」
「お姉ちゃん…」
女性の顔は紛れも無く、妹のレイシャだ。
だけど、記憶の中にある姿とは大きく違う。
私とレイシャは双子の姉妹だ。
顔は元々あまり似ていない。
それでも姉妹だと言って驚かれることはなかった。
だけど、今は自分たちが思っている以上に違う存在として対峙していた。
「お姉ちゃん、よね…」
私は、ようやく自分が感じていた違和感の正体に気付く。
歳を、取っていないかったのだ。
私は。
いつの間にか大人の女性になっていたレイシャとは反対に、私は少女のままだった。
この館へ来た時から、姿形がほとんど変わっていない。
恐らく、ユゼの影響を受けて。
「銃を向けないで下さい。この人がお話しした、私の姉です」
レイシャが必死に男たちに向かって言った。
懐かしい声に、涙が出そうになる。
レイシャは、私のためにここまで来てくれたのだ。
いつも私の後ろにいたレイシャが、大人の女性になって、私のところへ来てくれた。
嬉しさが胸に溢れる。
「あのね、お姉ちゃん。私たち、助けに来たのよ。
この人たちは、異国の吸血鬼狩りの人たち。事情を話して力を貸してもらったの。
もう、大丈夫だから…お姉ちゃん、一緒に帰ろう」
私に向かってレイシャが手を差し出す。
その白い手を見つめた後、私は小さく首を振った。
「ごめんなさい、レイシャ」
「……どうして」
私はもう、どうしようもなく、こちら側の者になってしまった。
きっと人側には戻れない。
レイシャの顔がくしゃくしゃと歪んでいく。
心の中で謝りながら、私は後ろ手でユゼの手に触れた。
ユゼは何も言わずその手を握り返す。
言葉がないのは、私自身が決着をつけるのを、待っていてくれているからだろう。