吸血鬼の花嫁
「ちょっと待て。姉だぁ?」
それまで黙って聞いていた男たちが怪訝そうに話を遮った。
そして互いに目配せをして、ひそひそと話し合う。
嫌な視線が私に注がれていた。
男の中の一人が、は慰めるようにレイシャの肩に置く。
「助けに来るのが遅すぎたようだ。残念ながら、あんたの姉さんは化け物の仲間になっちまってる」
「そんなことないわっ」
レイシャが手を置いた男に食ってかかった。
だが、そのままレイシャは腕を掴まれ、強引に後ろへと連れて行かれる。
「いいから、あんたは下がってなって。嫌なら目を閉じていりゃいい」
「レイシャ…っ」
バランスを失ってよろけたレイシャに、私は思わず駆け寄ろうと、ユゼから手を離した。
と、何かが視界を横切る。
私は動きを止めた。
銃口だ。
黒々とした銃口が私ではなく後ろのユゼに向けられている。
息を飲んだ。
そんなことをしては、いけない。
叫ぶより先に体が動いていた。
「花嫁っ」
ユゼの焦った声と、パンッという高い音が重なる。
雪の上に赤が花びらのように散った。
白と赤のコントラストが鮮やか浮かび上がる。
じんと鈍い痛みが私の脇腹を襲った。
あまり痛くないのは、私がもう人ではないからだろうか。
よく、分からなかった。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!」
レイシャの悲鳴が遠い。
頭がぼんやりとしていた。
「やめて…お願いだから…」
それでもなんとか声を搾り出す。
私と同じ間違いを犯して、ユゼを傷つけないで欲しかった。
「はなよ…」
「来ないで。来たら、今すぐここで舌を噛み切って死ぬわ」
駆け寄ろうとしたユゼを私は鋭く制止する。
本気だった。
私にはまだ、伝えなければならないことがある。
終わるまではユゼにだって邪魔されたくなかった。
男たちへ近付いていく私をざわめきが包む。
「昔、むかし。灰色の空に覆われたこの国の民は、魔の者に怯えながら暮らしていました」
「きゅ、急に何を言い出すんだ」