吸血鬼の花嫁


突然、雪の静寂を破り、パンパンッと空気を震わせるような音が届いた。

窓の外からである。

聞いたことのない音だったが、ひどく不安になった。

幸せを壊そうとするかのような、攻撃的な音。

先程までは、雪が降っていただけなのに、外が急に騒がしくなっていく。


私は自室を出てユゼの元へと向かった。

ユゼがきつく目を細めながら、玄関へ向かおうとしている。


「ユゼッ」

「花嫁はここにいろ」


険しい声が私を制止した。

その声を無視して、私は外へ出ていくユゼの背を追う。

嫌な胸騒ぎがした。

ユゼを一人でいかせてはならない。


「待って。一緒に行かせて、お願い」


やっとのことで追い付いた私は、ユゼの衣装の裾を掴みながら外に出た。


空気がざわりと騒ぎ出す。

複数の人影が、館の庭に入り込み、玄関を取り囲んでいた。

雪の中、赤い松明が揺れている。

私は驚きで目を見開いた。


「出てきたぞ、青い髪をしている。吸血鬼だっ」

「銃だ、銃っ」

「早く撃つ用意をしろ」


人々の怒声が私たちに向けられる。

身に覚えのない、悪意。怒り。嫌悪。


「何が、起きてるの…」

「…吸血鬼狩り、か」


ユゼが忌ま忌ましげに呟く。

吸血鬼狩り…。

その言葉に私は血の気が引いた。


「私は人の気配には疎い。どうやらそれを知っている奴がここを教えたようだ」

「どういう、こと…」

「対吸血鬼では私には勝てぬと思ったのだろう。

だが、私は人に危害を加えることを望んでいない。ならば、人を向かわせてみれば、と」

「貴方を、殺すために…?」


私は必死でハーゼオンの話を思い出す。

最近、吸血鬼が吸血鬼狩りと手を組んでいるという話を。


「恐らく。扇動でもされたのだろう。ここに、悪い吸血鬼がいる、とでも」

「そんな…」


そんな嘘を、どうして信じたのだろう。

胸が痛くなる。


「止めて」

「花嫁、下がれ」


私はユゼの前に出て、人々に向かって叫んだ。


ユゼを狩るなんてそんなこと、私がさせない。

絶対に。



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