吸血鬼の花嫁
ジェフは雪に埋もれた遠い故郷を思い出す。
どこまでも寂しい大地。
それはどこか、隣にいる青年に繋がるものがあった。
「…寂しいところだったよ。俺がいたのは、十年以上も前の話だがね。きっと今も変わっていないだろう。
昔はあんなに雪深くとも豊かで平和な国だったらしいけれど。
今ではただの貧しい辺境の地さ」
ユゼ地方は元々はユゼという名の国だった。
しかし、隣国シルヴェリアに攻められ、現在はシルヴェリアの一地方になってしまっている。
国だった頃は良かったと、お伽話のように人々は繰り返した。
彼の地は、廃れる一方である。
「そう。それは残念だ」
「何にもないところだしなぁ。吸血鬼の話が多いぐらいで」
ジェフはもう、故郷を懐かしいとは思わなかった。
ここで時折吸血鬼の話を聞くと、思い出すぐらいである。
「吸血鬼といえば」
青年が吸血鬼でも捜すかのように辺りを見回した。
「ここら辺を支配していた吸血鬼は生きることに飽きて、突然己の眷属を滅ぼし尽くしたそうだね」
「それは黒い吸血鬼の話かい。俺は初めて聞くけれど」
「壮絶な遊びだったらしい」
まるで、本当のことのような口ぶりだ。
「ははは、俺よりもあんたの方がよく知っているようだ」
「知り合いに詳しいのがいてね」
「なるほど」
それなら、吸血鬼が出て来る話は、ジェフが話さなくても知っていたのだろう。
あの微妙な反応から察するに、とうに聞き飽きていたのかもしれない。