吸血鬼の花嫁
ごほごほと、胸を押さえたまま何度も苦しそうに咳をしている。
「大丈夫か?」
ジェフは慌ててその背をさすった。
病持ちだったのだろうか。
そういえば、青年は健康的な男子よりも幾分痩せている。
何度か咳を繰り返した後、青年は顔をあげた。
「あぁ。申し訳ない。誰かにうつるようなものではないから」
青ざめた顔が痛々しい。
「それならいいが…本当に大丈夫なのか?」
「周期的に悪くなるんだ。特に満月期が近いと」
冗談めかして青年が言った。
顔色が少しずつ戻っていく。
満月期に悪くなると言えば、一つしかなかった。
思わぬ冗談にジェフは、はははと声をあげて笑う。
「それじゃ、まるで狼男じゃないか」
「今は、いい薬が出来て、症状の進行がだいぶん止まっているんだけれどね」
「サウザンロスへは療養で?」
「いや、約束を果たしに行くんだ。…会いたい人がいて」
「そうかい。あそこは年中暖かくていいところだ。
きっと待ち人にも会えるだろうよ」
そういえば、先程絆がどうとか言っていた筈だ。
その相手だろうか。
だとしたら、切れた絆の先が見つかるといい。
「…そうだね」
ふっと青年の表情が曇った。
大きく息を吐くと、青年は胸の辺りさすりながら遠くを見る。
「俺がこんな風になっても生きているってことは、まだどこかにいるって証拠なんだ」
言葉の意味はジェフにはよく分からなかった。
ただ、青年の中に強い意志があることだけは、感じ取れる。
ジェフが深く尋ねるのを拒むように、青年は静かに目を閉じた。
サウザンロスへの道のりは、もう残り僅かだった。