吸血鬼の花嫁



「別に気にしてねぇからいーけどよー」


明らかに気にしている口調でルーが言った。すっかり拗ねている。

こういうところは、本当の子供みたいだ。

吸血鬼はもう一度、悪かったと短く謝る。


すると、そっぽを向いていたルーがため息と共に吸血鬼を見上げた。


「…なんつーか、あんたが昔の記憶をそんな風に捉えているなんて思わなかったから、ショックだっただけだし」


ルーは、この吸血鬼が人が好きだと信じていた。故に、余計にショックだったのだろう。


「…嘘は言っていない。だが、様々な感情のある一面の話だ」


拗ねたルーを宥めるわけでもなく、謎掛けのような言葉が返される。私とルーは揃って首を捻った。

様々な面の一つ、ということは。


「それは、全てマイナスな記憶なわけじゃなくて、嬉しかったり楽しかったりしたプラスの記憶もあるってこと?」

「…恐らく」


自分自身のことなのに、他人事みたいな言い方に引っ掛かった。


「忘れてしまった、とか?」


楽しかった方の記憶を。


問い掛けに吸血鬼が考え込んだ。


「記憶と感情を共に記録しても、感情の方が先に消えてしまうだろう。

記憶があっても、そこに不随する感情は後から付け加えられたものが多く、その時の正しい感情ではない」

「ええと…」


難解になっていく話を、私は必死で紐解く。


「それはつまり、その時は楽しくても、後で思い出すとつまらない記憶になってしまうってことかしら」

「そこへ別の要素が干渉することにより、そうなる」


何がなんだかさっぱり分からない。



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