吸血鬼の花嫁
「そんなに重要なことなの。その、古き魔を封じているってことが…」
古き魔について詳しくないせいか、その重要性がよく分からない。
そんな私に、ハーゼオンはうん、と即答した。
「だって、そんな面倒で骨の折れること、誰もしたがらないから。
古き魔を野放しにされると吸血鬼だって迷惑を被るよ。だけど、わざわざ封じ続けるぐらいだったら、古き魔の手の届かないところへ行くしね。
だから、お人良しにも封じてくれている青珀には、皆、基本的に手を出さないわけ」
それは、確かにお人良しだ。
そして私は話を聞きながら気付いたことがある。
この国にいても、ユゼには何一ついいことがないのではないか、という。
そんな、事実。
心が重かった。
「だけど、中には馬鹿もいるんだよ」
ハーゼオンは、私ではなくユゼに話始める。
今までのは、ずっと私への説明だったのだ。
あからさまに、声には怒気が篭る。
「つまらぬ俺への嫉妬で、その馬鹿者は頭の悪い計画を立てているらしい」
ハーゼオンの緑の瞳がじっと何かを睨んだ。その瞳は、ここではない、どこか遠くを見ている。
「青珀はこの前、紫焔のところの吸血鬼の侵入を許しただろう。それがどこかから漏れ、噂になっているんだ。
青珀が弱っていると」
「おい、それは…」
「どこから漏れたのかは分かってないよ。今調べてる途中。
そして、あの馬鹿は考えた。小賢しい俺を消すために、まず先に弱った青珀を消したらどうだろうか、と。
青珀がいなければ、古き魔は解放され、青はもちろん赤の領域さえも飲み込ませることが出来るんじゃないだろうかって」
「なんだ、それは…」
みるみるうちに、ルーの顔が引き攣っていった。
私もことの重大さを理解する。
「そのために、どうやらあいつは人と手を組んでいるらしいよ。吸血鬼狩りの奴らと。
お優しい青珀様なら、人には手を出せないだろう、ってね。なりふり構わないにもほどがある」
ハーゼオンが、感情を吐き捨てるように言った。
つまり、ハーゼオンは。
ユゼの命が狙われている。
そう、言いたいのだ。