吸血鬼の花嫁
場がどんよりと沈黙している。私はユゼを盗み見た。
ユゼは氷色の瞳を閉じて何やら考えている。
途方もなく馬鹿げた計画に、私は怒りよりも先に疑問が湧いた。
「そんなことをして、何になるの…」
ハーゼオンに尋ねると、緑の瞳が故意に私から視線を逸らす。
「何も」
呟く声は冷ややかで、暗い。
「何にもならないよ。…あいつは、俺がこの世に存在することが許せないだけなんだ。俺一人消えたところで、世界がもの凄く変わるわけじゃない。
だから、何にもならない。あいつが満足するだけ」
ハーゼオンの独白に、私は引っ掛かる。それは、赤食みとやらの話ではなくそれ以前の問題だ。
「貴方がいなければ、私たちは哀しいし困ると思うわ。そして、それは私たちだけじゃない。
それって貴方が消えたら、何にもならないわけじゃないわよね?」
少なくとも、私の周りには影響がある。
不意を突かれたように、ハーゼオンは瞬いた。それから、気まずそうな顔をし、ごまかすようにへへへと笑う。
「やだなぁ。なんでそんなこと言うんだろ。俺の弱いとこ見透かされてるみたい」
「…言いたいことがあるなら早く言えよ」
後ろのルーが野次を飛ばす。ルーも、私と同じことを思ったのだろう。
腹を決めたのか、ハーゼオンはユゼに向き合うとがばっと頭を下げた。
「毎度、迷惑をかけて申し訳ない。んでもって、また迷惑をかけると思うんだけど…」
ちらりと、ハーゼオンはユゼの顔色を伺う。同時に、ユゼが瞼を開いた。
「気にしていない。赤食みの件についてはこちらも警戒をしておく」
「今更気を使ってるんじゃねーよ」
ユゼの返答にルーが畳み掛ける。
「いやさ、なんか申し訳なさすぎて、謝るにも謝れなかったっていうか…。
俺がいなければ、こんな厄介事に巻き込まれなくてすんだんじゃ、とか色々思うわけ」
「お前がいなければ、別の厄介事に巻き込まれていただろう」
本当は、真っ先に謝りたかったのだ。だけど、ユゼの反応を気にして言い出せずにいたらしい。
あっさりとしたユゼの答えに、ハーゼオンの体からへなへなと力が抜けていった。