吸血鬼の花嫁


暇だ。

私はベットにごろんと横になる。

ニ週間も経つと、することがなくなってしまったのだ。

家事のほとんどは家妖精がやってくれるし、裁縫をしようにも作る物が思いつかない。

誰かと話したかったけど、残念ながら私には家妖精が見えないのだ。

物音のしない館は広く暗い。

今頃あの二人はどこにいるのだろう。

国境付近なんて行ったことがない。想像すら出来なかった。


館の中に独りきり。

独りは寂しい。


自分という存在の輪郭がどんどん失われていくようだった。

長く独りだったユゼも、こんな風に思ったのだろうか。


青珀の吸血鬼、ユーゼロード。


なぜか、どんどんと不安になってくる。部屋の隅に落ちる闇が一層濃くなったように見えた。


『青珀は、人を恨んでいる』


私の不安を広げるように闇が囁く。

がばりと私は起き上がった。そして辺りを見回す。

自分じゃない誰かの声を聞いた気がしたのだ。

だが、部屋には誰もいない。


『人を恨んでいるから、お前を贄にしたのだ』


また、どこからともなく響いた。

私の不安を見抜いていく。


『お前は、見せしめなのだ』


違う。

そんなことはないと信じたい。

信じたいのに、少しずつ自分が惑わされていくのを感じた。


『お前に贄以上の価値はない』


どこから声が響くのか、私はようやく理解する。


私の心の中だ。

私の孤独と不安が共鳴している。


『所詮、吸血鬼にとって、人は食料でしかないのだから』


違う、違う。そんなことない。

私は必死で打ち消した。


『だから、青珀にとって自分は特別な存在ではない』


否定する心を嘲笑うかのように闇は続ける。


『好きになってはいけないのだ』


好き。誰を。


「私が、ユゼを好き?」


そう、なのかもしれない。その言葉は逆に私を納得させた。

ここ最近、苦しかったのは、それに気付かなかったからなのかもしれない。

気付いてしまえば、なんだという気持ちになった。

だけど、同時に疑問が浮ぶ。


何かが、おかしかった。


< 95 / 155 >

この作品をシェア

pagetop