世界の灰色の部分
週末。
今日と明日は出勤だ。

家族での夕食を終え、わたしはからになった食器を流しへ持っていくと、そのままリビングを出た。そのまま自室へ向かう。もう何年もこうだ。
普通の家族だったら、このあと揃ってアイスを食べたりテレビをみたり、学校であった出来事を話たりするのかもしれない。
ただ去年から変わったことは、自室にこもったわたしが、そのまま抜け出すようになったくらいで。

パーカーにジーンズという当たり障りのない家着のまま、大きな鞄と高いピンヒールのパンプスを持って、わたしは自室の窓から外へ出た。
鞄の中には、派手な、いかにもキャバクラで働いてます、みたいな女が着るような私服と、化粧道具と、髪を巻くためのヘアアイロンが入っている。
それらを持って駅のトイレへ行き、わたしは南野夏実からキャバ嬢・瑞穂へと変身し、出勤するのだ。
家からそんな格好で出たら見つかったときに言い訳のしようもないから。そんなことになったらすべてが終わってしまうから。
世界の灰色の部分で生きるのなら、そこまで徹底しなくてはならない。
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