恋うつつ ~“好き”というどうしようもないキモチ~
髪の毛もまだ湿ってはいるけど、もうポタポタと水滴が落ちることはなくなった。

だけど、二つの瞳からポタポタと落ちてきくる涙の雫はまだ止まらなかった。



トイレの個室から出て、洗面台の上の鏡の中の自分の姿を恐る恐る覗いてみる。

今朝、鼻歌まじりでセットした髪の毛がペッタンコになっていて、おこづかいをはたいて買った花柄ワンピが絞りすぎてシワくちゃになっている。


あゆみセンパイの言ったとおりこんなカッコじゃ、デートなんてできない。

……ってか、こんなカッコじゃ人前に出られないし、これじゃ、家にも帰れないよ……。

服が乾くまでしばらくココにじっとしていようか?

いや、でもたとえ服が乾いても、こんなシワくちゃの服着て、おまけにペッタンコのヘアースタイルでなんて、とてもじゃないけど山手線には乗れないよ。

どうしよう……あたし、このままずっとココにいないといけないの……? あたし、これからどうしたらいいの……?

そう思った瞬間、頭の中が真っ白になって、思考回路がほとんどストップして、焦るキモチさえなくなってしまった――――


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