√番外編作品集
チカチカした面が鏡のように、山岡ちゃんの姿を写した。

振り向く姿

柑橘系の薫り

英語の本をめくる指

弁当箱をつつむ手

空を見上げたあの目

「いつもと違うんだ。どうしよ早苗さんしかもフられてるんだよ」

「この人だって思った相手こそ、自分の思い通りには行かないもんだよ」

改めて早苗さんの顔を見てはっとする。

こんなこと言って早苗さんに嫌われたらどうしよう。

ついつい何でも言ってしまうけどこんな俺を見られたらいくら早苗さんだって──

「早苗さん、こういう俺嫌いだよね。ごめんごめんちょっと深刻ぶってみてるだけ」

「茶化してんじゃないわよ、私がちゃんと話聞いてあげてんだから!」

バシ、と思い切りテーブルを叩くと隣の席にいたスーツ姿のお兄さんがびっくりした。

そして俺の視線に気付いてそそくさと席を変えた。

「深刻なら深刻だって言ったっていいのよ。私に隠し事して何か損になることでもあるっていうの? 学校も一緒じゃなければ毎日の生活だって違う。小指の爪くらいの接点しかない気軽な相手でしょうが」

早苗さんはそこまで言って、手元の飲み物を仰いだ。

口紅がカップについて、カチンとソーサーと重なると早苗さんはいつも通りにペーパーナプキンで口紅を拭き取った。

「私にまで好かれたいの? 私はあんたの女神じゃないのよ。全員に愛想振りまき続けてたら誰からも愛されなくなるわよ。欲しいものが見つかったんなら、堂々と欲しいってハッキリ言ってみなさい」

早苗さんの言葉にまた黙り込んでしまった。
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