√番外編作品集
「お袋みたいな子なんだ。そう思ってた。無償の愛っていうか好きとかそういうのとは、違うと思ってた」

「なるほどね、だから"山岡ちゃん"なのね」

俺たしかに千恵とも千恵ちゃんもと呼んでない。

なにか、特別な壁を無意識に作ってたんだ。

「相手に対してどこにも行かないと思って安心してる気持ちがあったのよ。母性を感じてたならなおさらね」

店内の照明が手元のカプチーノに差込んでくる。

残っていた白い泡は深いオレンジ色に揺れていた。

「でも黒沢くんは付き合うつもりはないんでしょ? だったらもう一度山岡さんにアタックしてみれば」

「どうやって」

「いつもの調子で。あら、いつもの調子が出せないなら本当に、本当かもしれないわね」

早苗さんが笑った。だけど俺には笑い事じゃない。

「気が付かなければよかった、こんな気持。明日からどんな顔して黒沢と山岡ちゃんに会えって言うの? 山岡ちゃんにまた突き放されるよ。南都美が留学してまだ間もないのに」

「そうね。私もそうだけど色恋絡みで流動ある人間って、こういうとき本当に不利よね。本当にこの人っていう人が見つかったとき、自分が辛いもの」

「俺さ2人とも好きなんだよ。だからあの2人くっついて欲しいって思ってるんだよ」

おれのx値は言うんだ

山岡ちゃんには幸せになって欲しいし、黒沢には彼女が必要だって。

だけどy値は違う。

山岡ちゃんが女神だって気が付いたのなら、俺はがんばるべきだって、そう言ってくる。

「みんなそうよ」

「え?」

「みんなそうなのよ、そういう気持ちでさいなまれて苦しむのよ。それは真剣に人を好きだからこそある気持ちなんだから、投げ出さないのよ」

山岡ちゃんも、敦ちゃんもそうなのかな

黒沢に対してこんなこと、考えてるのかな。
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