ことばのスケッチ
「ママ、ちょっと来て」
「まぁ、両手でつっぱている」
「どうするかな!」
 顔を下ろしては持ち上げを繰り返している内に、腕が疲れてきた。最後の力を振り絞って顔を持ち上げたら、体の重心が移動して私の体が一回転し、座布団の縁から転げ落ちた。その瞬間に私の体がふわりと浮いて、また座布団の上に移動した。ああ疲れた!死ぬかと思った!一体どうやって顔が持ち上がったのだろう?無我夢中だったので、あの時のことを覚えていない。
「お母さん、仰向けじゃなくて、うつぶせにしてみたら」
「そうね」
《私は死ぬ思いをしたんだよ!》
「またやるかしら」
「きっとやるわよ」
「おお、できたできた」
《ああ!疲れた!》
「ママ、もう一度やってみようかしら」
「そうね」
 こんなときにどうすればいいんだと、思案にくれている内に、うつ伏せになったまま眠ってしまった。
「ハイハイするのは早いかしら」

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