チェンジ‐ため息の行方
 そしてその女性が歩き出した直後に、物陰からややくたびれた感じで無精髭をはやした、どこから見ても風采のあがらなそうな男がヒョイと現れた。

 そしてその女性がトレイを戻しているほんの数秒のわずかな隙を狙うかのようにして突然にその男は、バギーに乗せていた赤ちゃんと自分がだっこしていた赤ちゃんとを素早くチェンジして逃走した。

『えっ?!』それは一瞬の出来事だった。 

 その現場を目撃した桐島は『はあ?!』と心の中で短く叫ぶと、あっけにとられて今、自分が目撃したその後景が信じられない?と言った風な感じでもって目をパリクリさせてしばし唖然とした。

 が、しかし桐島はすぐさま我にかえると、そこへ丁度トイレから帰って来たつれの谷崎に、赤ちゃんを連れて逃走したその男の後を追うように指示した。

 だがトレイを戻し赤ちゃんの元へと戻った若い母親はその数秒のわずかな時間に起きた出来事に全く気づきもしない。
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