ため息を吐き、少女が寝ている部屋へと向かう。

今日は疲れただろうから、よく休んでください。

…そう言って半ば無理矢理寝室へ入れたけれども、全く知らない他所の家で、果たして寝つけているのだろうか。


長い廊下を歩く間、ごく微量ではあるが料理に睡眠薬を入れた、と言った千代の言葉が、浮かんでは、消えた。


―眠ってうなされている間、ときどき暴れ出すのよ。

―殺して、と叫んだり。


…あの、少女は

いったい、何を抱えているのだろう。


名も名乗らず、何処から来たのかも分からない、少女。


確かに、そんな者とは関わるだけ厄介だ、と言っていた千代は正しいのかもしれない。
中途半端な同情ならば傷つける。…それも確かに、在るだろう。


だがしかし、

冷たい雨に打たれ、蹲って倒れていた彼女の姿からは、全力で他者に助けを求めている、そんなものを感じたのだ。

もう、あの、冷たく折れてしまいそうなくらいに華奢な体に触れた瞬間から、僕の中で何かが動き始めていた。


これはきっと、その「中途半端な同情」であり
善でありたがる僕の、押し付けがましい行動だ。


断じて、人助けではない。


…そんなことは、わかっている。


しかし、それに関わり続けようとする内の自分に、僕は逆らえない。
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