今日もまた、見慣れぬあたたかい食卓が、私を迎えた。

湯気のたつ味噌汁は、この現状をより違和感あるものにしていて。
胸のなかで小さな虫が忙しく走り回っているように、痒い。

しかも、このなよなよした男のふやけた笑顔までついてくるのだから、全く不快極まりない。

ああ……何故私は、昨晩呑気に眠りこけ、この屋敷から逃げることを考えなかったのだろう。


そう、私が自身を殴りつけたい気持ちになったときだった。

藤士が持っていた茶碗を卓に置き、私をじっと見つめてきた。
なんだ、と視線で応えると、藤士はぽつりと告げた。


「午後から、少し出かけます」



……抜け道は、拍子抜けするほどあっさりと目の前に広がった。


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