午前中、藤士は忙しく家のなかを動き回り、自分が家を留守にする間のすべてのことを片付けた。それはもう、文字通り目も回る速さで。

呆気に取られている私を他所に、彼はにこにこと笑みを浮かべながら、ぱんぱんと手を払い

「さあ、どうぞ何も気にせず、体を休めてください」

などと、ふざけたことを言った。

呆れてため息をついた私に、やはり能天気な笑顔を向けてくる。
こいつはきっと、家を荒らしに入ってきた盗人にさえ、茶を煎じ茶菓子を出したりするのだろう。
ついでに世間話まで始めそうだ。

「…お前は……馬鹿だな」

思わず呟いた言葉にさえ、彼は笑顔で応えた。


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「それでは、夕刻には戻りますので」

ふわふわと飛ぶ綿毛のような笑顔でそう告げた藤士は、しずかに戸を閉めた。
その姿を内心哂いを堪えながら見つめていた私は、彼が出て行って暫くして――屋敷の外へと、足を踏み出した。





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