町は、人で溢れていた。
物売りの子供が、細い声で懸命に抱えた鳥籠を売ろうとしている。
その籠に入る鳥を想像して、私はなんともいえぬ気持ちになった。

籠のなか、世界を「見る」だけの鳥。

目をぎょろつかせ、餌を待つ。朝も昼も夜も、その繰り返し――人に飼われるとはそういうことだと、私は知っていた。知っていたから尚更、その籠が「アレ」を思い出させた。

ぎりぎりと、握った拳に力が入る。
喧騒がやまぬ人の渦の中、私は唇をかみながらひたすらに歩いた。

時折、子供や女や老人と肩がぶつかったが、そんなものを気に留めることもない。

だんだんと上がってくる太陽が、汚らしい私を照らす。
着物のほつれが目について、咄嗟にそこを握った。

しかし、そこでふと、笑いが漏れる。
今更、何を気にする必要があるのだろう。


……私は只、止まることなく進み、逃げるしか、ないのだ。
< 34 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop