昇ってきた太陽が、頭をじりじりと焼く。
もともと殆ど陽の当らない場所で生活していたために、歩くこともさることながら太陽の日差しにも、こんな体には、堪えた。

ぜえぜえと、渇いた喉から熱い息が出る。

時折視界がゆれ、景色がぐにゃりと曲がり、足元がおぼつかなくなる。

太陽の熱と
暑さと
棒のような、足。

すれ違う人はみな、汚らしい野良犬を見るような目で私を見、避けていく。


しかし、疲労しきった私にとっては、誰にぶつかることもなく道を歩けるのだから、これはこれで好都合だとさえ思えた。


頭の中では絶えず、脅迫のようにあの男の声がこだまする。


―溝ネズミが

―逃げられると思うなよ


暗い部屋と、男の声。
繰り返される――



頭の中で大きな渦を描きはじめた記憶を、頭を一振りして消し去る。


……逃げて逃げて、逃げてやる。


かさかさの唇に歯をたてて、ぐっと噛んだ。

つうっと、こめかみを熱い汗が一筋伝った。
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