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鍋を火にかけて、深くため息をつく。

…何をしてるんだろうか、私は。

町医者のはずが家政婦まがいのことをやって。得体のしれない女の世話をし、いま、こうして馬鹿の家で晩飯の支度をしている。

なんだかもう、流されるだけになっている自身にさえあきれてきた。

窓の外を見やれば、綺麗な橙色の空が広がっていた。
生ぬるい風にのって、隣の家の晩飯の匂いが届く。


まな板にのせた包丁とたまねぎを見て、何故だか猛烈に、悔しくなった。




―私は昔から、

めったにされない頼みごとと、あの馬鹿の、気の抜けた笑い顔が苦手なんだ。









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