母の心音(こころね)
「今でもよう覚えとる。七月二十日やった。長男が友達と一緒に長島へ行くと聞いて、会えると思ってそりゃその日のくるのが待ち遠しかった。このときばかりは日の経つのが遅うてな。その友達の家へは歩いて行けるのでな、顔だけでも見られると思って仕事をほったらかして行ったんや。そしたら、つい先ほど出かけたって言うんや。家とは目と鼻の先まで来て、会えなかったんや。母のことを思っとたら、一分でも家に寄るはずや、そう思うとな、そりゃ寂しかった。何やら見放されたような気持ちになったんや。長男は親思いのある子やと思っておったんやけど。そう思ってな、体中の力が抜けてな、しょんぼり家に帰ったんや」



会えるかと
思い来たれば子は既に
佐原の地には面影はなし



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