母の心音(こころね)
「そしてな、暫くして手術室から出てきたんや。頭に白い包帯をしてさ。駆け回ってつい先ほどまで遊んでおったのに。そう思うとな、なおさら愛おうしく思えてな、小さな頭に包帯をしてさ」



両の目を
白き包帯覆われて
部屋に戻りし姿いたわし



「十月二十七日、孫の手術も無事に終わってほっとしたけど、別れたんや。また二人きりや。主人と二人で、石原山の下刈に行ったんや。今日で四日になるけど、孫のことを思って主人とも話さずに、沈んで居るんや。石原山へは豆津の谷沿いの道を行くんや。そりゃ綺麗な水でな。喉が乾くと道端の葉っぱを取って、救って飲むんや。サラサラ、チョロチョロ、チンチンと聞えるんや。何とも言えぬ優しい音や。この音を聞くとな、心が和らぐんや。この音を聞きながら、下を向いたまま無言で歩いたんや」



今日もまた
豆津の谷のせせらぎの
音を聞きつつ登る山道



「次の日も、豆津の谷のせせらぎを聞きながら、石原山へ行ったんや。この山はな、日当たりがようて、木がよう育つんや。びっくりするほど育っておってな、主人と二人で思わず微笑んだんや。下刈仕事は重労働やけど、すくすく育った杉の木を見て仕事の手も軽やかやった。そりゃ、楽しみでな、四人の子供もそうやってな」


植林の
杉の木立はよく育ち
励ましくれる老いし二人を
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