母の心音(こころね)
「一月二十日、正月も終わって、普段の生活が始まったんや。村の区長の用事で、昼前に高野へ行ったんや。すずり坂を下って、豆津の谷から流れ落ちる小さな滝の所へ差し掛かって、川を見下ろしたんや。底が見えない深い鯰(なまず)淵が鏡のように静まり返って、その水面に岸辺の木や、山、空が映っておってな、そりゃ、絵葉書のように美しかった。夏休みの川はそりゃ賑やかやけど、冬の川は静まり返って居るんや。剃刀の刃のように、鋭く静まり返っておるんや。暫くたたずんで独りで見とったんや」



澄み切った
鏡のような水面に
岸辺も空も映す冬川



「一月二十五日、老人会で寺に集まったんや。十六人やった。その中にな、少し見ない内にびっくりするほど老いた人がおってな。自分では気が付かないけど、傍目から見たら自分もそうやろかと思ってな、人生の日暮れを感じたんや」



老人の
集いで会し村人の
しばし見ぬ間の老いに気付けり

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