母の心音(こころね)
「そしてな、雨の日に独りで家に居ると、様々なことが思い出されてな。自分の歩んできた道がな、これでよかったんやろか。終戦直後で、食べる物も着る物も無かった時代のことやら、子供と離れ離れになって、寂しい日々を送ったことやら、今では長男に良くは思われていないことやら、色々過去のことが思い出されてな。これでよかったんやろかってな」



過ぎ去りし
四十年の山坂を
思い起こせば胸は痛みぬ



「そしてな、自分の身の回りの色々な出来事に、悲しみや恨みをどう思い開きをつけたらええのやろ、そう思ってな」



浮き事に
心はちじに砕かれて
さまよう思い如何に留めん



「そしてな、七月十二日やった、長男一家が出て行ったんや。そりゃ、一緒に暮らしたのは賑やかで楽しかった、ほんの少しの間やったけど、行ってしもたんや」



嬉やと
思う浮世の浮きごとか
またも別れて行きし長男
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